____________________前日___________________ |
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友人の息子が夏休みを利用し、遊びに来た。 少年は路線バスと高速バスを乗り継ぎ、夜8時に坂出着。
停留所で目が合った途端に駆け寄って来た。お互いに顔を覚えておりホッとする。
2年ぶりに見る少年は、またひとつ大きくなっていた。 友人の子供の成長に驚くたび、我が身の老いを感じる。(涙) |
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おっさんと少年は、その足で丸亀の”大阪大将”へ。
おっさんはなぜかこの少年と
男友達っぽくメシをガッつきたかったのだ。
少年も腹を空かせてるだろうから、すぐに平らげるかと思ったら
案外普通に食べ終わった。
普段はもっとお上品な食事をしていてクチに合わなかったのか?
いや、中学生も高学年になると”遠慮”というものを覚えるらしい。
食後、ぽかぽか温泉で汗を流した二人は
四国地区を席巻しているスーパーマルナカで
翌朝のパンを買い込み、おっさんの散らかった部屋に帰宅。
部屋ではおっさんのベッドに寝転がり
深夜番組を見たり、持参したゲームをしたり
まるで自分の部屋のようにくつろぐ少年であった。
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____________________13日___________________ |
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翌朝。 おっさんの狭い部屋で二人、朝食を摂りながら今日の予定をたてる。
おっさん「何かしたいことある?映画見たいとか、釣りしたい、とか、その他。 あっ、カヌーは明日乗れるからね。」
少年「釣りがしたい。」
おっさん「え? そうか。 映画で”るろ剣”やってるよ。」
少年「映画はいいよ。 釣りがいい。」
じつは”るろ剣”を見たかったおっさんは、意気消沈しながら釣具屋へと車を走らせた。 |
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エサを買おうと思い釣具屋へ入ると
老婆がひとり腰掛け店番をしていた。
すぐあとから馴染みらしい客が入ってきて老婆と話し始める。
おっさんは仕掛けを選びながら
聞こえてくる会話を何気なく聞いていた。
二人の話は
「この辺りじゃあ今年は釣れたという話を聞かんわ」というものだった。
昔ほど魚が釣れないし、子供も減ってるから、客は減り
あとを継ぐ者も居ないであろう店。
そんな儲けも出ないであろう店を
”来てくれる馴染み客”のために一人頑張って続けている老婆。 |
この先、こういう温かみのある店が時代の波にかき消されてゆくだろう。
寂しいことだが、かといって温かみを知らない時代が来るかというと、そういう訳でもないだろう。
それぞれの時代で、それぞれの温かい形が創られるだろうから。
ゴカイ青を500円分買って店を出た。 いよいよ”少年とおっさんの夏2014”のはじまりである。
二人は大野原にある”一宮海水浴場”東にある長突堤に到着。
キス釣り実績があるこの堤防には、先客がひとりだけ。 よしよし。
さっそく道具を抱え込み、堤防の先に向かう。 少年が率先して荷物を持ってくれるのでありがたい。
こりゃあ、何年か先には”青年と老人の旅”になりかねないな。
外で遊びたいという不良老人と、それを介護しそのワガママに振り回される青年の物語。
想像してひとり苦笑いするおっさんであった。。。 |
海水から塩をつくる為、ボトルに海水をくむ少年
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歩いていくと、向こうに小さな猫の姿がっ。
「ネコがおるわ!」と言って近づくと姿を消したので
「本当の野良猫かもな」と言って先へ急いだ。
そして、以前キスが釣れた辺りで荷物をおろし、陣を構える。
竿をひとつ少年に渡し
「おっさんがするのと同じように自分でやってみ。」と言う。
リールを付けて、竿に糸を通し、竿を伸ばし、仕掛けを結ぶ。
少年はおっさんの言うとおりに仕掛けをつくることが出来た。
そう、ここまでは完璧だった ここまでは。。。(汗)
おっさんはエサ袋からゴカイを一匹取り出し、堤防の上に置いた。
するとなぜか、少年が横で浮き足立っている。
ゴカイがクネクネ動くと
少年は卒倒しそうな顔をして身をよじらせている。
どうやら少年はこういう生物が苦手らしい。
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「うへー!キモチ悪ぅ〜!」と言って
いつまでも騒ぎ、いっこうにエサをつけようとしない。
その情けない姿を見たおっさんは
内心「おまえは女子かっ!」とツッコミを入れた。
おっさんは3つの針に丁度良い長さでエサをつける為
「まずゴカイを三等分しまーす!」と言い
爪でゴカイを切断。 その途端ゴカイの動きが
クネクネからピチピチ!になり暴れ始める。
そのさまを見ていた少年の瞳は、まるで地獄絵図でも見るかのよう。
口をポカンと開けて見ていたが、ふと我に戻ったのか?
「ギャー!」という奇声と伴に飛び上がった。
「だから女子かっ!おまえは」とツッコミを入れるおっさん。
少年「なんで3つに切っちゃうの?」
おっさん「針が3つあるからや。
こんな長いのを一匹まるまる針につけてたら
すぐにエサ無くなっちゃうよ。」 |
そう言ってゴカイを針に通すおっさん。 針を通されてもピチピチ跳ねるゴカイ。 その隣で身をよじりながら見ている少年。
おっさん「こんな感じで針につけるんや。ほれお前もやってみ。」
少年「えええーっ! ぼ、ぼ、僕がやるのぉー? おじさんやってよぉー!」
おっさん「お前は女子かっ! こんなこと、近頃は女子でもやりよるぞ。
エサを針に付ける事も出来んで、よぅ”釣りがしたい”などと言うたもんやな?
よう思い出してみぃ。 ”釣りがしたい”って言ったのはオマエだぞ!」
そう言い終わると、そそくさと自分の仕掛けを海に投入し、知らんぷりするおっさん |
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少年は内心
「鬼ぃー!オレが想定してたのはこんな釣りと違うわ。
イクラとかルアーを付ける釣りじゃー!」とわめいていただろう。
しかし、おっさんがいつまでたっても知らんぷりするものだから
諦めたようだ。
芸人がよくTVでやってる「箱の中身は何だろなー?」みたいに
ビクビクしながらエサ袋に手を突っ込む少年。
顔を紅潮させ、やっとの思いでゴカイを一匹取り出し
岩の上に放り投げた。
その途端ピチピチと跳ねるゴカイ。
少年はまたギャー!と言って飛び上がった。
まるで熱湯の温度を測るかのようにゴカイに接する少年。
見かねた隊長は、少年のもとに軍手を放り投げた。
「これ履いたら噛まれへんし、つかめるやろ。」
急いで軍手に手を通す少年。
しかし少年の手さばきは、先程とほとんど変わらなかった。
今度来る時は厚手のゴム手袋を準備しておこう! |
少年「おじさん、ハサミ貸して!」
おじさん「なんや道具がいっぱい要る釣りやのぉ! 爪で押したら切れるやん。
これはピコピコゲームちゃうんやぞ。 現実の世界ではアイテムGETするよりも素手で戦え!素手で!」
そう言って、しぶしぶハサミを差し出すおっさん。 |
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少年はゴカイがクネクネ動くたび
「もぉー、頼むからじっとしててよ」と言ってうな垂れ
ゴカイが勢いよく跳ねるたび「ウギャー!」と言って飛び跳ねた。
そして格闘すること10分。
ようやくエサを針につけ終わり、海に投入する少年。
しばらく経って巻き上げると、エサが2つ盗られて、ひとつになっていた。
おっさん「エサを付け足したらええよ」
少年「あぁ、大丈夫。まだひとつ付いてるから」と言って再投入する少年。
よほどゴカイが苦手らしい。
次に引き上げて来た時には、エサが全部盗られており愕然とする少年。
また堤防の上でゴカイと格闘すること10分。 を繰り返した。
時々飛び上がるその姿は、堤防上のダンスのようだった。。。 |
しばらくして、隊長がチビフグを釣り上げ、そのあと少年もチビフグを釣り上げた。
少し嬉しそうに「なんだ、フグかー」と言って竿先をおっさんに寄せてくる少年。
おっさん「アホかっ。おっさんが当たり前みたいにフグを針から外してくれると思ったか?自分でしなさい。」
少年「ええーっ!」
おっさん「ええー!はこっちのセリフじゃ。おまえは大名か? 第一”釣りがしたい”と言ったのはどこの誰だね?」
あきらめの表情でフグを針から外そうとする少年。
フグがピチピチするたびに腰が引けている。 さっきのゴカイがフグに変わっただけじゃん。
どうしても素手で掴めないのか「おじさん、外してよぉー」と女子みたいなことを言う。
おっさん「軍手履いてるんだろ?ガバっと掴みなさい。ガバッと!」
少年「軍手くらいじゃ、感触が伝わってくるもん。」
おっさん「そうやって、やりもしないうちからすぐそういうことを言う。掴めないなら、針のところだけ持って手返しだけで外すとか
石の上に寝かせて、上から足で踏んづけて押さえるとか、自分で考えろよ!
これはピコピコゲームなんかじゃねーそ!それにここは四国だぞ!四国! 四国に来たからには素手で闘え!」
少年「なんのこっちゃ!?」 |
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頼りの綱のおっさんが
”ふだん周りにいる大人と違う”(話の通じる相手ではない)
と悟った少年は、それからまた10分かけてフグを針から外した。
こういうのを何度か繰り返し、少年の釣った数がおっさんを上回った。
おっさん「ヤベーな。このままだと”釣り勝負”はおじさんの負けだな。」
少年「えへへ。でもチビフグばっかりじゃん。ここ本当にキスいるのぉ?」
おっさん「おるわっ!キスが釣れないのを
場所や人のせいにしていては立派な釣り師にはなれんぞ。」
その後も、釣り場所を少しづつ移動させ、探りながら釣ってゆく。
しかしキスは一向に釣れず、向こうの海水浴場から
90年代の音楽がぼんやりと聞こえてくるだけだった。
少年「やっぱ、ここキスおらんわ!」
と、少年の緊張感が切れ掛かった頃
おっさんがキスを一匹釣り上げた!
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おっさん「ほれみてみぃ。おるやろが!ここが違うのよココがっ!」
と言って、おっさんは自分の腕をパシパシと叩いた。
さすがにこれには少年もヘリクツのヘの字も出なかったようだ。
やっとキスが釣れ始めたというのに、しばらくしてエサが底をつき納竿。
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小雨がパラつく中、堤防の上を帰っていると
またさきほどのネコが現れた。と思ってよぉーく見たら何とタヌキだった!
野生のタヌキは見たことが無かったので目を疑ったが
やはりどう見てもタヌキだった。 可愛らしい子狸3匹と親狸1匹。
おっさん「ひょっとしてキス食べるかな?」
釣れたキスを一匹放り投げると、途端に咥えて走り去った!
あとを追う子タヌキと奪い合うその姿はまさに野生そのものだった。
残りのキスも全部わけ与え、海をあとにした。
近くの温泉”萩の湯”へ行き、海臭さを洗い落とし
クーラーの効いた休憩室で寝っ転がる。
1時間ほどくつろいで出ようとすると
ゲームコーナーを見つけた少年が
「釣りでは負けたけど、ゲームじゃあ おじさんに負けないよ!」
と言うので、カーレースで勝負することに。
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おっさんはシートに座ると、少年に
「昭和生まれのおっさんをナメてると痛い目にあうぞ!」と言い
ボォン!ボォオン!とアクセルを吹かした。
そして勝負はすぐに決した!
「ほらな。」と言って立ち上がるおっさん。
対照的に、苦笑いしながら立ち上がる少年。
温泉をあとにした二人は
今度は徳島に向けて走り出すのであった。
”14-08-14 吉野川カヌーツーリング”へと続く。。。
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